わが人生を締めくくる無上の喜びはAIUでの11年間~なぜそう思うのか

縣 正彦 名誉特任教授
在任期間:2009-2019
担当講座(最終名): Leadership in International Management, Japanese Business Culture, Management Practices in Global Business

わが国で新型コロナ・ウィルスが未曽有の災禍として最初のニュースになって伝えられたのはダイアモンドプリンセス号における感染で2020年の1月。私がAIUでファイナルレクチャーをする光栄をいただき、11年間に及んだ毎週の空路出講にピリオドを打ったのは、まさしくその1か月前でした。

私は少年の頃、アフリカで医療奉仕をしているアルバート・シュヴァイツァーというドイツ人医師が実はパイプオルガンの弾き手でもある、という話を雑誌で読んで感動しました。また、その少し後に米国出身のグウェン寺崎という夫人の「太陽にかける橋(Bridge to the Sun)」という自伝で、その人が、開戦直前から戦中に至る難しい社会、国際環境にあっても誠意と愛に支えられて日本人外交官の妻として立派に立ちふるまったことを読んで、「ああ、外交って、こういう心のレベルでの大切さがあるのだ」と感銘を受けました。

Childhood days – dreaming boy in a magazine interview 1955 (author at right)

他にも海外での冒険や助け合いの記録なども読んでいた私は、いつの間にか世界を舞台に仕事をしたいと思っており、大学の指導教授が紹介してくれた日本輸出入銀行という、現在では「国際協力銀行」と改名、改組されている政府機関に就職しました。

Banker days while young

その仕事は、日本の企業や政府が海外との関連で行う経済活動のための金融であり、31年余りの在職期間中に50ほどの国で事業現場の視察や交渉に当たり、また大統領や首相、主要大臣といった海外要人とも接する貴重な経験もしました。(その後の仕事の期間も加えると生涯の業務上訪問先国の数は約60か国・地域となりました。)自ずと、使う英語もつきあう人の社会層に相応しい格調のものに磨く必要に迫られたことを思い出します。

Banker days with fellow staff of division in New Year

このように有意義で、またある面で華々しかった金融マンの私も、52歳の時、不本意にも1年間「浪人」生活を強いられました。ある人から海外の仕事への手伝いを誘われて、安易に応じて銀行を自主退職した時で、予期せぬ暗転、挫折感と失意にまみれた期間でした。

ところが、何ということか、人とのご縁は親切に働き、米国のGeneral Electric(通称「GE」)という会社に招かれることになりました。齢53歳の男が、それまでの「官」の環境から一転して、「民」の、しかも「生き馬の眼も抜く」ような、ダイナミックで元気一杯な、米国企業。グローバルな舞台で若い心でないとついていけないような創造性と生産性、仕事のスピードを追求するモノ作り(メーカー)の場に飛び込むことになったのです。

GE days – in Miami meeting 2001

職場のキーワードは「全社員が実践すべきリーダーシップ・ヴァリュー」でした。全世界に居る社員個々に成果に向けたコミットメントを求め、しかしみんなにやる気と満足感をもたらす・・・という運営スタイル。それは、前職の31年間、否、おそらく多くの伝統的な日本の組織では思いもつかないことで、「目からうろこが落ちる」どころか、本当に目を醒させるものでした。

GE days with Jack Welch and Jeff Immelt 2004

そんな時期に「縣さん、あなたの経験を活かす講座をなにか持ちませんか」とAIUからお誘いを受けたのです。私は上記の経験と思いから「国際的な活動でのリーダーシップを語らせていただけるならば、自分の国、世のためになるのでは・・」と考え、喜んでお引き受けしました。2009年1月の冬学期から秋田通いを始めたのです。

国際金融や企業金融の講義は他でも経験しておりましたが、「リーダーシップ」の講義は自分で選んだテーマとはいえ全く初めてのことで、かなり緊張して授業に臨みました。そんな私に力を与えてくれたのは最初のクラスの9人の学生諸君でした。”Senior Seminar on Leadership”という講座で3年生以上を対象としていたのに、1人は当時1年生だったのに「2年生になったら学園祭の実行委員長を務めるので、それに向けてどうしてもリーダーシップを勉強しておきたい」と強く望み、聴講生扱いながら唯一皆勤しました。またある日の授業が終ってみんなが教室から退出しかけた時「先生、わたし先生のこの授業が好きです!」と声をかけてくれた人がいました。「どうして?」「この授業に出ているとわたし元気になるからです。」こうした受講生からの反応のお蔭で、その講座はその後11年に亘って続き、またそこから派生した2、3の別講座も加わって、合わせて30ほどの国から来た留学生を含め830人の学生諸君と共に語り、学び合うことになったのは、私の誇る宝物です。今もFacebookで彼等の中の少なからぬ人達と繋がって消息を知らせ合うという、嬉しいご褒美もいただいています。一時の失意がこのようなご褒美に変わったのです。

Initial class in AIU 2009

なぜ私のAIUでの奉仕はこんなに喜びに満ちたものになったのでしょうか。

それは、まず、おそらく、若い日に世界ですぐれた、あるいは人を感動させる人の姿を読み聞きして、自分が世界大で何かをしたいという夢を持ったことに始まるのでしょう。また53歳にしてまったく新しい天地(GEでの仕事の仕方)を知り、典型的な日本の組織行動との比較から「これでは日本はダメになる」という衝撃的な気づきが、自分の行動のエネルギー源となって、もっぱら奉仕的な行動を支えてくれたからでしょう。さらに、国際的な思想人であった内村鑑三の墓碑銘に記された “I for Japan, Japan for the world, the world for Christ, and all for God” に表された、常に一段と高い次元、一段と広い視野で物事を考えよ、そして傲慢、利己を戒めよということが歳を重ねた段階での私を導いてくれたからではないかと思っています。今年八十路に踏み込んだ自分の人生の軌跡を見るにつけ、物事の順番がそのように導いてくれたことへの深い感謝の念が湧きます。

Days with English Speaking Union of Japan – meeting Duke of Edinburgh 2012

若い皆さんは、AIUで世界に向けた末広がりの視野を身につけられています。それは他では簡単に得られないことです。是非大切に堅持してください。そして、自己中心に止まることなく、謙虚に大きな社会のために働きかけたいという気持を実践に繋ぐことによって、本当のAIUSpirit が実ることを信じてください。

”You for Japan, Japan for the world!”

Final lecture in AIU 2019

縣 正彦 名誉特任教授

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