小商いのすすめ (本屋の場合)

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プロフィール

8期生。愛知県出身。国際教養大学卒業、UCLA映画学部「Professional Program in Producing」修了。映像制作会社を経て、経済産業省による映画・アニメーション業界のプロデューサー育成や資金調達支援事業に携わる。その後、デザインの領域に軸足を移し、デザインを通じた経営や事業開発の伴走支援、企業や商品・サービスのブランディングを行う。2021年秋、秋田県に移住。

はじめに

はじめまして。唐突ですが、私はここ最近「商い」について考えています。それは、起業や経営といった大きなことではなく、もっと小さなイメージです。「小商い」と表現するほうが適切かもしれません。その存在は人生をより良くしてくれるかもしれないと感じています。この記事で、この春から私が個人的に始めた “本屋的活動” について紹介することで、読者の皆様が自分なりの小商いを考える、始めるきっかけとなれたら嬉しいです。

小商いをはじめる

私は、商品・サービスの企画、ブランディング、まちづくりのコンセプト策定など様々なプロジェクトに、フリーランスとして参加することで収入を得ています。ひとつの肩書で仕事を表現することが難しいため、「すく (= 複雑なものごとを梳かし耕し、そして抄く)」という屋号を掲げて活動しています。

その「すく」の屋号で、今年 (2022年) の春から「ウィークエンド本屋」として活動を始めました。自らのスペースは持たず、ふだんは本のない空間に本棚をつくって販売するポップアップの本屋です。「BOOK&WEEKEND (ブックエンドウィークエンド)」というイベント名で行う本の販売に加えて、同じテクストを通じて人と対話する読書会も開催しています。これまでに喫茶店や革小物工房、商店といったスペースをお借りして定期的に本屋を営んできました。

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同じ屋号に紐づけて考えているため一概に分けることはできませんが、仮に前者のフリーランス活動は、これまで培ったスキルや経験を活かして生計を立てる役割を担っているとすると、後者の本屋的活動は「小商い」と位置づけて前者とは異なる期待をしています。

集落の商店で一日限定のポップアップ本屋を開催

小商いをやってみて

私なりに考える「小商い」の定義は「自分が良いと信じてつくる物事を通じて他者と交流すること」です。

「それって本当に良いと信じているの?」これまでのキャリアで、いわゆるクライアントワーク (顧客の課題解決) を担当することが多かった私は、いつも自身にこの問いを投げかけていたように思います。誰かのふんどしで相撲をとるのではなく、自分の小商いを始めるにあたってまず「自分が良いと信じるものは何か?」を考えた結果、私が生きるうえで欠かせないと考える大好きな「本」を選びました。

また、”つくる” は物を作るなどの狭義の意味ではなく、広義で手を動かして価値を生み出すことを想定しています。徹夜して本の値札を手書きしたり、本が詰まったダンボール箱をいくつも運んだり、お客さんが興味を持ってくれそうな棚をつくるために日々本を並べ替えたり。普段の仕事ではやりたくないと感じる非効率な作業を手を動かして行うことに楽しさ、やりがいを感じます。

そうやってつくった物事に対して人から反応をもらう喜びはひとしおです。本棚をじっくり眺め、「これください」とレジにもってきてくれるお客さんに対しては、心から「ありがとうございます」という気持ちを抱きます。読書会で話が盛り上がり、会が終了してからも参加者同士で話が尽きない様子をみていると本当に嬉しくなります。

このように、数ヶ月の間手探りで本屋を行ってきましたが、正直なところ金銭的な実入りはあまり多くありません。一方で、それ以外の部分でもたらされる豊かさがたしかにあると感じています。

7月に開催した「とある昼上がりの読書会」の様子

余白から生まれる小商い

もうひとつ、小商いを始めた理由を付け加えるなら、それは東京から秋田に移住したことです。

5年半暮らした東京は、何から何まで選択肢にあふれている場所で、「自分で何かをやろう」という気がなぜか起こりませんでした。振り返ってみると何かをやるための余白 (競合がいたり金銭的なハードルが高かったり) が非常に限られていることが大きかったのかなと思います。また、それが自分で耕したい余白ではなかった (東京という土地への愛着がなかった) ということもあります。

一方で、AIU生ならご存知の通り、秋田には余白がたくさんあります。「何もない」ではなく「何かできる可能性がある」と捉えたときに秋田はとても魅力的なフィールドになります。そして私自身、その余白を耕したい (秋田に何かしら貢献したい) と思って移住したことが、自分なりの小商いを始めるきっかけだったと感じます。

もしやりたいことがあってもできないというのであれば、環境を変えてみることで動きやすくなることもあるかもしれません。

現在暮らす土地の山々をバックに

小商いの先に

小商いを営むことで感じられる豊かさがあると書きました。でもそれは、誰にとっても価値があるものではなく、それを始めたあなただけのものかもしれません。私は、「すく」の活動を通じて、個々人が世間一般的な価値基準に依らず、自分なりの生き方を見つけていく、そんな世界になることを願っています。そんな世界で出会えたら、ぜひあなたの好きな本について教えてください。

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コメント

コメント一覧 (1件)

  • 素敵な記事をありがとうございました。
    「余白」って本当に大事だなと思います。
    「無駄」「非効率」などと並べて現在の産業的世界観?価値観?では
    悪と捉えられてしまいそうですが、「何かできる可能性」と捉え直す視点が新鮮です。

    どうしても「余白」を埋めるように無意識的に予定を入れてしまったり
    逆に自分の仕事に直接・短期的に結びつかないことを無駄・必要なこと、
    として切り捨ててしまい、目の前のやることに追われる生活が
    充実しているものと勘違いしてしまっている、そんな風に思うこともあります。

    自分が大切にしたいと思っているものは何か、それを改めて自分に問いかけるヒントを
    いただきました。

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